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船越令子

vol.69


PROFILE

株式会社エイ出版社
エバーブルー編集長

現在の会社での経歴と担当している主な活動

前職でいくつかの非営利団体を経て、2002年、サーファーやダイバーなど、海を愛する人たちに向けた「海と自然環境を考えるフリーマガジン everblue」の創刊と同時に入社。自らeverblueの企画を持ち込み、そのまま編集長を務めることになったが、当時編集は未経験だった。現在では、頼もしい女性スタッフを中心に環境問題をどのように表現したら多くの若者たちに伝わるかを試行錯誤しながら楽しく本をつくっている。

家族構成

愛犬ウメタ(黒パグ)

趣味

サーフィン、お酒を飲んで友人と語りあうこと、音楽鑑賞、犬との散歩

好きな国or行ってみたい国

日本とジャマイカ

影響を受けた人、尊敬する人、目標にする人

人ではないが、動物たちの純粋な目にいつも何かを教えられる。

一番大事にしているもの

都会の真ん中でも、どこにいても、夜空の星や月の偉大さに感動し敬意を持てる心


船越さんが描く、理想的な社会とはどんな社会ですか?

私にとって自然環境やそれを取り巻く問題は長年の関心事で、いくつかのNGOで仕事もしましたし、野生動物について専門学校で学んだりしました。今は海と自然環境を考える雑誌「everblue」をつくっています。強く感じるのは、本当の意味での“豊かさ”を履き違えてしまうことが、環境破壊につながっているということです。短大を卒業して初めてジャマイカを訪れた時に体験したことが強烈に印象に残っているのですが、まず何に衝撃を受けたかというと、彼らの“豊かさ”だったんです。ジャマイカは日本よりずっと貧しい国で、スラムもあります。しかし、私が接した、彼らの笑顔だとか人生に対する姿勢は、豊かだと表現するほかないものでした。「豊かさを履き違えてはいけない」というのは、ジャマイカで出会った90歳くらいのおじいちゃんの言葉です。彼とは長い長い時間語り合ったのですが、その言葉を繰り返し口にしていました。特に私たち現代人が、環境にまったく負荷のない生活をすることは不可能です。どんなに身の回りをオーガニックのものでかためようと、リサイクルを完璧にしようと、私たちが環境に与える影響をゼロにはできません。

ストイックになって、あれにもこれにもダメ出しするだけなら簡単ですが、そうではなく、それを少し緩めた所に、みんなが実現できる持続可能なライフスタイルがあるのではないでしょうか。少なくとも自分のライフスタイルを見直して、取捨選択をすることはできますよね。とにかく、豊かさを物質的なもののみに求めるのではなく、精神的なものと補い合い、折り合いをつける必要があると思います。このように考えるようになったのは、ジャマイカでの体験のほか、趣味のサーフィンがきっかけになっています。サーフィンをしていると大きく見える波も、地球全体で見ると、ほんの小さなものです。けれどその波相手に飽きることなくこんなに楽しく遊ばせてもらえる私は、更に更に小さな存在です。生きてゆく上で環境負荷をゼロにすることはできなくても、人間ばかりが存在以上に大きな波紋を作ることは慎むべきだと自然に考えるようになりました。

どうすれば、この理想的な社会を築いていけると思いますか?

自然の中で楽しむのが一番だと思います。とりわけ都会に暮らす人たちは、普段自然のことを忘れすぎている気がします。机の上で環境問題を考えるより、自然に触れてみる。実感することです。人間も地球に生きる生き物のひとつなのですから、必ず自然の偉大さ素晴らしさを身をもって知ることができるでしょう。そして、きっとまた自然の中に戻って来たいと思うでしょうし、そのフィールドがなくなっても構わないと考える人などいないはずです。本をつくっている人間が言うのもなんですが、活字は体験的に得られるものを超えることはできません。私の場合はサーフィンですが、すごいのは、自然が私に、「ひとりじゃない」と思わせてくれるんです。

自分も生態系の一メンバーなのだと自ずと思えてくる。そう思えることで、人間として精神的に強くなれるんです。また、自然の中で思いっ切り遊ぶ体験は、普段は自然と遠い都会にいても、ビルの間から見える月や、街路樹や、吹く風の音のような、ちょっとしたものから自然の息吹を感じ取る感性をもたらすように思います。もちろん、サーフィンに限らず、登山でもトレッキングでも何でも構いません。自然を楽しむ。それに尽きると思います。

今の仕事をしていく上での喜びと、逆に難しい点は?

everblueではビーチクリーンキャラバンと銘打って年に4回、読者と一緒にビーチでゴミ拾いを行います。世の中に雑誌はたくさんありますが、作る側が読者と共にこうした活動をしているのは珍しいと思います。併せてワークショップを開くなどして、なぜゴミを拾わなくてはならないかや、ゴミを出さない生活を一緒に考えたりもします。たまたまそこにいたサーファーたちも参加してくれたり、なかなか楽しいイベントです。私たちにとって、実際に読者と会える機会があるということはとても素晴らしいことで、毎回とても楽しみです。また、街でeverblueのオリジナルTシャツを着ている人を見つけると、嬉しくて嬉しくて駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られます!変な人だと思われたくないので、実行には移しませんけど(笑)。難しい点では、常に読者と同じ目線を保つことに心を砕いています。特に環境問題を伝えてゆくにあたっては、ちょっとでも目線が上になると押し付けになってしまいます。具体的に言うと、「こうゆう現状があるからこうしましょう」ではなく、「こうゆう現状があるけれど、どう思う?」と訴えてゆくことです。私も様々な環境NGOを知っていますが、地道でも本当に素晴らしい活動をしている団体をいくつも知っています。

けれど、一般の人に対してそれを伝えきれていないケースがほとんどなのです。私たちはeverblueを介して、そうしたNGOと一般の人をつなぐ掛け橋にもなりたいと思っています。それには、わかりやすい切り口でなくてはいけない。渋谷を歩いている若い子にもわかってもらいたいからです。そもそも、私が環境問題をまだまだわかっていないので、自分も学びながら本をつくっていっていますが、この視点はこれからも忘れてはならないと思っています。企業の発行する環境報告書も、難しいですよね。わかる人にはわかるのでしょうが、私には難しい。もちろん、誰に対して伝えてゆきたいのかによりますが、内容は素晴らしいのにもったいない!と思うことが多々あります。

今の仕事を始めてから体験した印象的なエピソードはありますか?

everblueは、私が環境系の財団に籍を置いていた時期に仲間と語り合う中で、「環境をもっとオシャレに打ち出せないか」と考え、企画を出版社に持ち込んだのがきっかけでできた本なのです。当初は出版社に作ってもらおうとだけ考えていたので、まさか自分が編集長になるなど思いもよりませんでした。編集の「いろは」は何もわからず、まさに素人でしたから、この会社(エイ出版)に持ってきて、「よし。じゃ、あなた作って」と言われて、どうしようかと思いました。しかも他の社員だって忙しいですから、あれこれ教わるヒマもなくて・・・。それでも何とか、自力で(笑)出しました。

そんな風に入った道ですが、一冊一冊everblueが増えてゆくのも嬉しいですし、この仕事ならではのたくさんの出会いがあり、貴重な体験をさせてもらっていると思っています。現在はパワフルな女性スタッフも加わってくれていますし、次のステップとして、紙面だけに留まらない展開の仕方を構想中です。

担当者になってから、自分の意識や生活の中で変わったことはありますか?

自分と環境との距離が縮まりました。以前はどこか他人事で、ゴミの分別を面倒に感じることもありましたし、日頃使っている洗剤にも無頓着でした。学生の頃に至っては、ポイ捨てだってしてました。けれど今は、自分と環境はつながっているという実感が持てるようになりました。

専門家のお話やデータを見聞きして考える環境問題は確かに難しく、自分とは関わりがない学問のような気がしてしまいます。けれど、環境問題はもはや誰にとっても身近なことで、今も私たちの手で日々引き起こされ、私たちに日々降りかかっています。意識が変わると行動が変わるのは当たり前のことですが、実際に私も大きく変わりました。

社会に伝えたいメッセージをどうぞ!

汚れた海が好きと言う人はいないと思いますが、サーフィンをしていると、ビーチに散乱するゴミがとても気になるようになります。ましてや、波にのまれると水を飲んでしまいますから、水が汚いのは本当に困ります。海のゴミは文字通り海を越えて流れ着くので、ゴミに国境がないこともわかります。日本のゴミもアメリカのゴミもない。ゴミはゴミなんです。そしてゴミは一度ゴミになると一生ゴミのままです。焼却したって灰は残ります。どんな風に形を変えようが、完全に消滅することがないというのは、改めて考えてみると恐ろしいことです。

環境問題はすべてがそうで、私たちが排水として流す水も、排気ガスも、結局全部みんなで共有してゆかなくてはなりません。そこには国境すらなく、すべてが他でもない、自分たちのところに返ってくる。全部つながっているんです。環境問題は一朝一夕には解決しません。私の作っている本にしても、成果がわかるのはずっと先だと思うんです。それでも伝え続けてゆきたいと思っています。100年後のために、今から少しずつでもやり続けなくてはいけないと思うのです。

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