クリックで救える命がある。

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深山忠宏

vol.63


PROFILE

ミズノ株式会社
法務部 CSR推進室 課長

現在の会社での経歴と担当している主な活動

1975年入社以来、複数の配属先で主に研究開発、品質管理に携わる。
97年より全社のISO14001取得にかかわったことをきっかけに、2004年に CSR推進室の立ち上げに動き、現在はCSR推進委員会の事務局として、ミズノの多岐に渡るCSR活動の取りまとめ役を担う。

家族構成

妻と以前拾ってきた猫。
息子夫婦が近所に住んでおり、孫もいる。

趣味

スキー、テニスと、山を歩き生きている蝶の写真を撮ること。子どもの頃に手にした蝶々の本の影響で長年蝶を追いかけている。この趣味のおかげで、自然の素晴らしさや些細な変化にも敏感になった。

好きな国or行ってみたい国

カナダかフィンランドでダイナミックなオーロラを見てみたい。国内ではきれいな蝶がいる北海道が好き。

影響を受けた人、尊敬する人、目標にする人

空海、坂本竜馬

一番大事にしているもの

小学校4年生の時に買ってもらった蝶々の本。今では書き込みだらけになっている。多様な種類の蝶の写真が美しく、子供心に夢中になった。この本の写真を超える写真を撮りたくて、蝶を求めあちこちの山野に出かけている。


深山さんが描く、理想的な社会とはどんな社会ですか?

いつまでも子どもが昆虫採集をできる社会です。今は違いますよね。自然が傷んでますから。それに、どこもかしこもアスファルトで、子どもが土を掘り返すこともできません。更に言うと、バーチャルなものの氾濫で、大事なものを見失いやすい世の中になってしまっていると思うのです。私が子どもの頃は、私はちょっぴり理知的でしたからそんなことはしませんでしたけど(笑)、蛙のおしりにストローを入れて息を吹き込み、膨らませて遊んだりしたものです。蛙が破裂するちょっとひどい遊びですが、好奇心いっぱいの子供時代に、自然の生き物の手触りや温度、臭いに触れ、そこから命について学んでいくことは大切なことだと思うのです。

柔らかかった蛙が死んでしまうと硬くなるとか、そのうち腐臭がしてくるとか、小さな命の生き死にをレッスンして大人になってゆくのが本来自然なのではないでしょうか。情報量が豊富なようで実際の臭いも手触りもないバーチャルの世界は、実体験とは別物です。その意味で私はバーチャルを信じません。だから私は、企業の中でも現場が大事だと思っています。机の上だけで完結するのは、CSRにおいても良くないことです。効率を上げる計算ばかりしていると、短期的な利益は得られても、しっかりした風土の中で根を張る企業にはなれません。

どうすれば、この理想的な社会を築いていけると思いますか?

人類にとって一種の不可逆的反応なので、実際には不可能に近いほど難しいと知りながらあえて言うと、地球が人間の所有物ではないということを自覚して、不自由さを我慢することですね。今の世界は、自分や自分の宗教、コミュニティの存続のために、個人の気持ちを殺してでも団体としての行動をせざるをえない状態です。

私はこれが変わらない限り、みんなが地球のために目覚めることは無理だと思っています。ひとつは国連がしっかりすべきだということが言えますが、これだけ自然災害が頻発しているのだから、気づかないわけにはいかないはずなのですが。

今の仕事をしていく上での喜びと、逆に難しい点は?

昨年の役員会でCSR推進室を設置すべきだと提案しました。CSRは大人の企業としての体質を底支えするものであるということ、これが今いかに必要であるかを述べた上で、「CSR推進委員会をつくり委員長は社長に務めて欲しい。役員にも教育を受けて欲しい」と申し入れました。結果受け入れられたわけですが、並々ならぬ思いがあって立ち上げたのですからもちろんやりがいがありますし、これ以上の喜びはありませんね。また、この仕事においては、日本を代表するCSR先進企業も含めて、熱心に取り組んでいる企業の担当者との情報や意見の交換をする機会に恵まれています。ミズノの取り組みはまだまだ発展途上ですが、考え方や方向性が間違っていないことを確認できるとやはり嬉しくなりますね。難しい点は、量的な面では、やればやるだけ課題も出てきて、しかも解決するためにどれくらいの時間を要するのかが読めないところです。部署ごとに抱えている問題であっても、解決は各部署内だけではまずできませんから。質的な面では、海外の製造委託先の人権問題がおそろしく難しい。中国では現地のNGOと協働で労働時間の短縮について対策を検討していますが、まず、法律遵守の立場で残業を減らそうとするNGOと、現地の労働者の希望や実情に明らかな隔たりがあります。

もちろん、各人の残業を減らして労働者の絶対数を増やした場合のコストの問題も大きいですが、ともすればこちらが労働環境の向上のために考えたことも裏目に出てしまいかねない。最近は残業を減らすと逆にストライキを起こされてしまう例すらあります。年齢を偽って働いている児童労働者についても同じようなことが言えます。精巧な偽造IDが数十円で買えるらしいのですが、年齢詐称がばれて働けなくなった場合、もっと環境も条件も悪い所に働きに行かなくてはならなくなる。場合によってはそれこそ劣悪な労働を強いられるわけです。ですから最近では、NGO側も従来より柔軟な姿勢で現実に即した対応をするようになってきました。これらは単に一企業の課題ではなく、社会構造的な問題なのです。複雑な思いがしますが、企業としては、どこまでをCSRとして線引きするかですね。

今の仕事を始めてから体験した印象的なエピソードはありますか?

上海ミズノという大規模な工場で、労働環境監査を立ち上げた際に、監査員への研修を労働者の人権に詳しい現地のNGOにお願いしました。このNGOは、中国南部に蔓延が懸念されるエイズ、SARS、肝炎などの疾病を食い止めるため、企業の管理者や労働者を教育することも始めています。聞けばそのNGOはひどい赤字なんですよ。にもかかわらず、たいへんな情熱と志をもって活動している。博愛精神というのでしょうか、頭が下がりました。スタッフのレベルは国際的に通用する高さで、グローバルな組織ともネットワークを持っており、中国にこうした人たちがいるというのは、最初は正直言って意外でした。人権に関する意識が低いと決めてかかっていたのは、私が中国の一面しか見ていなかったせいなのだとわかりました。素晴らしい出会いを得たと思っています。

それから、経済成長著しい中国も、一般の労働者の生活はまだまだ苦しいんですね。暮らしぶりや住居を見ると、衛生状態が万全な日本で快適な生活に慣れきっている私なら、たちまち肝炎でも患ってしまいそうな状況だったりします。以前、労働者にインタビューしているとき、出稼ぎに来て、二年間子供の顔を見ていないという女性に会ったことがあります。彼女自身はどうやって生活しているのだろうと思うほど、家族のためにひたすら貯金をしていました。胸が痛くなりました。片や私たち現代の日本人は、日頃意識することもなく浪費を繰り返しています。改めて、自分たちがおそろしく恵まれていることを知り、そんな自分たちの生活に考え直すべき点があるように思えてなりませんでした。

こうしたらもっと社会が良くなる、というアイディアはありますか?

子どもたちに、野菜の育て方や鶏の育て方、料理の仕方、つまり自給自足による自立を学んでもらう。──現代人のライフスタイルは、自然のありがたみを感じにくいものになっています。自分で農作物をつくってみると、「自然の恵み」をお題目ではなく理解できるようになります。キャベツに青虫がつくだとか、生みたての鶏の卵はあたたかいとか、見て触れて感じるひとつひとつの体験は、自然の不思議さや偉大さを知るのに欠かせないことです。

出来合いのものを与えられて口にしていると、自分と自然とのつながりに気づきにくいものです。そして、人間だけが自然界と解離した存在だと思い込んでしまうことに環境問題の根があるのです。

担当者になってから、自分の意識や生活の中で変わったことはありますか?

何度目かの挑戦で遂に煙草をやめました。環境を汚すことは良くないなと。家族が喜んでますよ。それにご飯が美味しくなりましたね。また、会社では、社内のリスクに敏感になれて、自分が会社を愛しているんだということを再認識しましたね。

スポーツマンらしいフェアな行動を通じて企業活動を営んでゆこうという、創業者の水野利八の精神を風化させずに根付かせてゆくべきだと強く思うようになりました。

社会に伝えたいメッセージをどうぞ!

ガイアと呼ばれる地球生命体、私たちの暮らすこの地球の病は、もうぎりぎりのところまできています。私は子どもの頃から昆虫が好きで、昆虫を通して自然の変化を見てきましたが、私が見てきたわずかな間にも、温暖化が進み、昆虫の生息地がどんどん北上しているんですね。例えば、クマゼミという大きなセミは、その昔東京ではほとんど鳴かなかった。現在は東京を通り越して北に分布しています。大阪ではめったに見ることのなかったツマグロヒョウモンという蝶の幼虫が、岐阜の我が家の庭でスミレを食い荒らしています。

ナガサキアゲハは今や名古屋まで来ました。夏の終わりにリーリーと美しい音色で鳴くアオマツムシも北へ北へ拡がっています。これらは異常な状態なのです。地域が独自に持っていた季節と生態系が崩れていっているのです。冒頭で、いつまでも子どもが昆虫採集をできる社会が私の描く持続可能な理想の社会だと言いましたが、環境破壊を何とか食い止めて、子どもたちに虫を返してあげたいと切に願います。

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