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赤峰貴子

vol.62


PROFILE

株式会社良品計画
企画室 環境担当課長

現在の会社での経歴と担当している主な活動

1990年入社。この年は良品計画が西友から営業権を譲渡された年でもある。
創生期の店舗からロジスティクスの構築、ISO9001事務局、顧客データ分析、広報と、2度の産休を挟みつつ様々な部署と仕事を経験し、2005年3月より環境担当に。
良品計画のHPにおいて環境ページを担当している。

家族構成

夫と3人の子ども(すべて女の子で上の子は双子)

趣味

読書は子どもの頃からの趣味。映画も好きで、とりわけヨーロッパ映画を愛する。

好きな国or行ってみたい国

イタリア。昔のイタリア映画が大好きで、特にルキノ・ヴィスコンティの作品のファンだから。学生の頃旅行したことがあるが、今訪れればまた違った体験ができるだろうと思う。

影響を受けた人、尊敬する人、目標にする人

谷崎潤一郎、トーマス・ハーディ、パトリシア・ハイスミス。3人とも共通して人間観察に優れており、多角的なものの見方ができる素晴らしい作家だと思っている。身近では、いつも自分を応援してくれる夫の母。個を尊重できる懐の深い女性で、常に前向き。その強さを非常に尊敬している。

一番大事にしているもの

ものごとを多角的に見ること。確固とした価値観を持ち、なおかつ他人にそれを押し付けないということ。


赤峰さんが描く、理想的な社会とはどんな社会ですか?

互いに「尊敬と尊重」を持てる社会です。自分自身についてですら100%把握するのは至難の技なのですから、例えどんなに親しい間柄でも、その人のすべてを理解することはできません。ましてやものごとの映り方は、それを見る方向や見る側の立場など様々な要因によって常に別の様相を呈するものです。この社会が、そのことをきちんと理解して、尊敬と尊重をもって他人の価値観を認められるようになれば、それが理想的な社会なのだと思います。自分の価値観にとらわれるあまり他人の意見に耳を貸さなくなることに、自然破壊や紛争の根があると思うからです。

「尊敬と尊重」というのは、私の担当している良品計画の環境ページでイラストを描いてくれているグリズーさんという日本人の女性と、彼女のフランス人のご主人が口にした言葉で、耳にした時、私がこれまで考えてきたことを象徴する言葉だと思いました。自然に対しても、人間関係においても、この尊敬と尊重の気持ちがあれば、破壊的なことは起きてこないのではないでしょうか。

どうすれば、この理想的な社会を築いていけると思いますか?

本当に自分にとって必要なのは何なのかひとり一人が今一度考えてみることではないでしょうか。感性があり感情があるのが人間の人間たる所以だと私は思っています。ですから例えば、環境のために何でもかんでも我慢して欲求を殺してしまったとしたら、やはり人間らしいとは言えないでしょう。おしゃれもしたいし美味しいものも食べたいと思うのは人間として当然のことです。ただしここで忘れてはいけないのが、私たち先進国の人間は決して必要最小限の生活をしているわけではないということです。ほとんどの日本人の生活は、無自覚なまま供給過剰な状態にあります。与えられることに慣れきっていて、それが当たり前になっています。けれど、改めて考えてみると、それと幸福とは別のものではないでしょうか。私がこのように考えるきっかになったのは夫のライフスタイルでした。夫は昔から、「自分が欲しいモノ以外は欲しくない」という明確な意思の持ち主でした。では何が欲しいのかというと、「自分に必要なモノ」なのです。一見当たり前のようですが、目からウロコでした。例えば、結婚前に彼の家に遊びに行った時、いわゆる石けんとか洗剤の類は家中で一つきりだったことを覚えています。私は普通に、いくつかのお掃除用の洗剤、食器用の洗剤、手洗い用、浴用の石けん、そしてシャンプーも持っていましたが、彼はそれらすべてをたった一つの石けんで済ませていたのです。

不思議に思って聞きましたが、返ってきた答えは、「だってそんなに持っていても、環境にも自分にも良くないし、第一必要じゃないから」とあっさりしたものでした。実際、何ら不便を感じていなかったようです。実にシンプルですが、そこには彼の、要らないものは持たないというひとつのライフスタイルの形がちゃんとあると思いました。翻って私は、多くのモノに囲まれた生活が当たり前になっていて思考が停止していたのでしょうね。夫がそんな人ですから、我が家の小学4年生の双子と4歳の3人の子どもには、テレビもあまり見せませんし、パソコンはおろかゲームも買い与えていません。上の双子は特に、そうしたものに決して興味が無いわけではないんです。よく、ゲームのことを知らないと、学校で友だちの話についていけないから可哀想と言いますが、うちの子どもは、諦めているのか、元来の性格がそうなのか、「ついていけないけれどそれはそれ」と気にしていませんね。「ゲームは買ってくれないけど、キャンプにはいっぱい連れて行ってくれるし」なんて言ってますし、学校も大好きです。この間は二人して「生け花を習いたい」と言ってきたので、それには一も二もなくOKを出しました。自分たちが本当にやりたくて始めたことなので、夢中になっています。人間は必ずしも、モノを与えられれば満足するというものではないですね。

今の仕事をしていく上での喜びと、逆に難しい点は?

良品計画のHPで環境のページを担当しており、『環境について今、考えていること。』と題して、コラムのようなものを連載しています。昔から書くことが大好きなんです。社内報をつくっていたこともありましたが、私にとってはそれもとても楽しい仕事でしたが、今度は社外にも向けて発信しているので、よりやりがいを感じますね。『環境について・・・』では素敵な生き方をしている人を紹介していますが、自分が素晴らしいと思う人たちを紹介できるのはとても嬉しいことです。一方、難しいことは山ほどありまして、入社以来いろいろな仕事をさせてもらいましたが、その中で一番難しい仕事を尋ねられたら、迷いなく今の仕事を挙げます!まず、環境に無関係な人はいませんから、社内だけでも皆それぞれに一家言あるわけです。例えば販売にしても、物流にしても、広報だって、どれも現場ごとに専門性を持っていますし、そうそう他の部署からあれこれ意見や注文が続いたりはしません。

けれど今はどうでしょう。「それは違うと思う」「もっとこうあるべきだ」という批判や、企業として成果を求めるものまで、受け止めきれないくらいたくさんの声が届くのです。正解のない部分が多い仕事ですから、試行錯誤しながらも自分が信じた方法で環境の大切さを伝えていきたいと思ってはいますが、正直言って苦労してますね。良品計画には、環境への考え方や関わりを、トップダウンで現場に押し付けるような形にしたくないという経営側の思いがあって、あえてはっきりと打ち出していないところがあるんです。その考え方には共感しているものの、社内外に環境に対する方針を明確に示しているような企業を羨ましいと思うことも、担当者としては多いです。

今の仕事を始めてから体験した印象的なエピソードはありますか?

夫や子どもが私の仕事に興味を持ってくれるようになりました。家族であっても、普段会社でどんなことをしているのかはなかなかわからないものですよね。

今の仕事では、ウェブを通して発信しているので、自分の仕事に対し家族からいっそうの理解を得られて、嬉しく思っています。

こうしたらもっと社会が良くなる、というアイディアはありますか?

テレビを消してエアコンを消してひとりになる時間を持ってみる。そして、本当に必要なものは何かを自分に問うてみるのです。世の中には情報と便利なものが溢れていますから、素(す)の人間として生活を見つめなおす機会がなかなかありません。

ほんのちょっとの時間でも、静かにひとり胸に手を当てて省みてみると、何かに気づけるかもしれません。社会を全体として捉えてかっこいいことを言うことは簡単ですが、ひとりひとりがわかっていなければ、世の中が良くなるはずはないのですから。

担当者になってから、自分の意識や生活の中で変わったことはありますか?

無印良品が好きになりました。もちろん今までも好きだったのですが、今の仕事をするようになって、いっそうその気持ちを強くしました。無印良品はもともと、日本のデザインの巨匠、田中一光先生が手がけたもので、「無印良品」という名のもとに“江戸の粋”のようなものを具現化したものでした。3年前に、お亡くなりになった田中先生の後任でチーフアドバイザーに就任した原研哉先生が、「無印良品というのは空っぽのうつわで、その中に何が入っているかというのは使う人が決めることだ」とおっしゃいました。

うつわの中に入るのは、シンプルさかもしれないし、低価格かもしれないし、環境かもしれないが、それぞれの人にとっての無印良品の価値観があると表現されたんですね。その時、無印良品が内包する文化の素晴らしさ、それをつくり出された田中先生の普遍的で哲学的なものの考え方に改めて深い敬意と感謝の念をおぼえました。無印良品が誕生以来一貫して基本に据えてきたのは、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」の三つですが、これらは現在の環境に対する考え方に続くものでもあります。無印良品への理解を深くするごとに、私たちはたいへんな財産を残してもらったのだという思いを新たにします。

社会に伝えたいメッセージをどうぞ!

自分に対するメッセージでもあるのですが・・・困難には、楽しむくらいの気持ちで挑みましょう。とかく現実は思うにまかせないものです。私にとっては子育てがその典型でした。スヤスヤ寝ている横で編物でもするイメージだったのが(笑)、赤ちゃんはいつもギャーギャー泣いてばかりだし、これから出かけようという時に限って何か始めちゃったり、だからついつい怒っちゃったりして・・・何ひとつこちらの思い通りにはいきません。なぜか3人もいるんですが(笑)、もともといわゆる子どもずきではなかったことから、母親としての自信がないことも手伝って、自分のいたらなさを思い知らされる日々の連続です。本当に、私はダメな人間なんだと毎日落ち込んでいました。けれど同時に、子どもとの日常の中で何気ない瞬間にもたらされる幸福感は、独身時代の私には決して味わうことのなかったものでもありました。

今も「お母さん好き!」などと言ってくれて、子どもからは意外にも(笑)人気者ですし、自分勝手ばかりだった私は、子どものお陰でやっと人並み程度の人間に成長できたと思っています。もちろん、子育てに限ったことではありません。他の人間関係や仕事においても同じことが言えると思います。怒っている自分がいても、それが自分のすべてではないように、人も人生も、その時のあり様が全容を表しているのではないとわかっていれば、困難に対してですら、寛容に、前向きになれると思うのです。そして、その時の困難こそが、自分をよりよい人生に導いてくれたのだと思える日が来ると思うのです。

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