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石田秀輝

vol.38


PROFILE

株式会社INAX
技術顧問 工学博士

現在の会社での経歴

1978年伊奈製陶蝓文臭INAX)入社。1992年空間技術研究所基礎研究所(新設)所長、1998年同社技術統括部空間デザイン研究所(新設)所長、2002年取締役技術統括部部長、2002年取締役研究開発センター(新設)センター長(その後環境戦略部の新設に伴い同部部長を兼任)、2004年6月より技術顧問。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学。1997年から「人と地球を考えた新しいものつくり」を提唱し、これに関わる研究開発を進めるかたわら、工業生産における環境負荷施策について国内外で積極的に活動。論文、著書も多く、数々の大学で教鞭を執る。

家族構成

“恋する同居人”と二人暮し

趣味

テニス、スキー、バロック音楽鑑賞

好きな国or行ってみたい国

エジプトなど紀元前後に栄えた文明が衰退した理由に強い興味があり、多くは赤道下にあるそれらの国々を歩くのが好き。

影響を受けた人、尊敬する人、目標にする人

大学の恩師。「ハッタリかませ、ウソつきにはなるな」という言葉に刺激を受けた。現在も親交があるが、新しい生き方のきっかけを与えてくれた人。

一番大事にしているもの

人とのかかわり。おもちゃ(家中がブリキのおもちゃであふれている)。そして、1年もたないと言われながら結婚して22年を迎える“恋する(もしくは愛しの)同居人”。22年経った今もお互い飽きない。


石田さんが描く、理想的な社会とはどんな社会ですか?

形としてはもちろん循環型社会ですが、その精神性を含めた文化をかっこよく表現すると「経済原理主義を卒業する社会」ですね。僕はずっと「新しい暮らし方の価値」を創るのが企業の仕事だと思ってきました。新しい暮らし方の価値を理解しないと新しいものつくりはできないと言い続けてきたつもりです。ただ、環境の側面から持続可能な社会を語るといつもネガティブなファクターが大きくなり、例えば江戸時代の暮らしに戻るといったことを声高に提唱する人も出てきます。

しかし、忘れてはならないのは、人間は一度得た快適性・利便性を捨てて後戻りはできないということです。では、そのことを肯定し、前提とした時に何ができるか。それが知恵というものでしょう。生活価値の不可逆性を肯定した上で、新しい価値観の中で環境負荷の低い暮らし方、ものつくりをすることです。「循環型社会はこうあるべき」などと言うつもりは毛頭ありませんが、“スローライフ”なんかは理想的な文化の形かもしれませんね。

どうすればこの理想的な社会を築いていけると思いますか?

とてつもなく難しい質問ですね(笑)。一番のキーになるのはソーシャルエデュケーションでしょう。学校教育はもちろん、企業、特に二次、三次産業がソーシャルエデュケーションの中でどんな役割を持っているのかをしっかりと認識すること、それからそのためにどう行動するのかというところに至るわけでわけですが、まず前提になるものの根幹には、やはり“新しい暮らし方”、“新しい価値観”の創出があるのです。では誰がそれを創っていくのかというと、これは国であるべきなんですね。本来日本という国は、先進国の中で唯一の多神教で、自然環境のみならず精神的にも非常に豊かなものを持っているはずなのです。にもかかわらず、循環型社会を目指す過程で、現在日本が足踏み状態にあることに僕も焦りを感じています。循環型社会へ自然につながりうる価値観を本質的には持っているのに、気付いていない、もしくは気付いていてもそこに可能性を見出せない指導者が現在この国を動かしているのではないでしょうか。

もっと言えば、アメリカの影響を受けすぎています。ヨーロッパにおいては文化と政策が1:1に対応していることを強く感じますが、アメリカを見てみると、建前はどうであれ、環境はあくまで付加的なもので、まずは経済原理ありきでしょう。残念ながら日本はアメリカと同じですね。「ある日突然環境問題をすべて解決できるすごい技術が出てくるに違いない。人間はそれだけのことができるんだ。」という空しい自信を前提に進んでいっています。それでもアメリカの場合はその実アメリカなりの戦略を持っていますが、日本はどうでしょう・・・。こうしている場合ではないのに、と時々情けなくなります。しかし僕は、日本人がこれからアジアに目を向け、アジアにおける日本の役割を真剣に考えた時、必ず目覚めると信じています。

今の仕事をしていく上での喜びと、逆に難しい点は?

「新しい暮らし方の価値」についてあちこちで話していますが、共感を得て広がっていくことを感じ取れた時に喜びを感じます。また、商品を通して新しい価値を見出してくれる方が増えてきました。──自然は完全な生態の循環システムを持っています。INAXでは“ネイチャーテクノロジー”といって、全てそれに倣った手法での開発をしていますが、商品を使っていただくのではなく、商品を使うことで暮らし方を変えていただきたいとというのが願いですから、少しずつでも実現しているのは大変嬉しいことです。

難しいのは、会社という営利あっての組織の中で、どのようにそうした提案を形づくっていくのかです。会社人としては時として大変困難な場合があります。僕は研究者として常にアングラな研究材料を持っていますが、要するに会社から実験をする費用が出ないので、先回りして自分でやってしまうんですよ。うまくいったものは結果をデータとして会社に持ち込む。「これでどうだ!」という風に(笑)。そこで初めて振り向いてもらえるのです。そういうものです。

今の仕事を始めてから体験した印象的なエピソードはありますか?

92年に環境部門を立ち上げて最初に手をつけたのが16ある事業所の廃棄物の削減でした。それまでは一般的にそうであったようにINAXでも処分の際に支払われる費用のみがコストとして計上されていましたから、極端に言えばいくら廃棄物を出しても、処理にかかる費用が全体から見ると少額なため顧みられることがなかったのです。僕がやったのは、廃棄物にそれらが廃棄物になる前までにかけられた費用を算出してコストとして加えるというものでした。つまり、1トンの廃棄物を処理するための処理費用が1万円だとすると、それが廃棄物にかけられた全てのコストとされてきましたが、廃棄されるものにそれまでかけられた材料や製造のための費用を内訳して算出し、それが10万円になれば、この場合、廃棄物にかけられた最終的なコストは合計11万円になるという考え方です。それだけの無駄を出して、つくった製品が仮に10万円でしか売れないとなると、企業として損をしていることになりますから、会社も見過ごすわけにはいかなくなります。

最初は事業所からすさまじい反発がありましたが(笑)、じきに定着してゼロエミッションへの自然な流れになりました。僕としては、こうした評価を導入することで、当時はあまり重要視されていなかった「環境」に対する概念を社内に植え付けたかったのです。また、環境担当といえば、従来は公害対策担当者がそれにあたり、決してクリエイティブとは言えない仕事だけを任されていましたから、環境部門に優秀な人材が集まる好循環をつくりたかったのです。うまくいかなくて会議で小さくなることも何度となくありましたが、この試みに関しては成功でしたね。いつしかINAXに“廃棄物”という言葉はなくなりました。過去に捨てていた端材などの製造ロスをとことんまで利用して、品質の良い、それだけで売れる別の製品をつくるからです。それにより利益率も大きくアップしました。

社会がこうしたらもっと良くなる、というアイデアはありますか?

いろいろ挙げるのは簡単ですが、どうしても評論になってしまうので、僕にとってはそれを語るより「だから僕は何をすべきか」ということ、つまり実践することの方が大事ですね。

10年先の暮らし方を考え、その時代にも求められるであろうものつくりの仕方を伝えていくのが僕の役割で、それが僕の考えるソーシャルエデュケーションの中での自分に与えられた仕事だと思っています。

担当者になってから、自分の意識や生活の中で変わったことはありますか?

僕の場合、担当者になったのではなく、必要だと思ったのでお願いしてやらさせてもらったのです。遡ると、85年くらいから、「(省資源・省エネのために)焼かないセラミックスをつくろう!」と言ったりして上司に呆れられていました。しかし幸いINAXには「そんなに言うならやってみなさい。」という社風があって、最初は予算こそ出ないものの意外とスムーズに離陸させてもらえましたね。

生活の中で変わったことと言えば、何としてでも環境に着手したいと願い出て始めた手前、プライベートでも自由に車を乗り回すことがはばかられるようになったことでしょうか(笑)。本当は車が大好きで、ちょっと変わった車も隠し持っているんですけど、ほとんど観賞用になっています。

社会に伝えたいメッセージをどうぞ!

環境は人間にとって避けて通ることのできない課題なのです。悲観的になる要素はいくらもありますが、ここは人間がそれほど馬鹿ではないと信じるほかありません。どうせ避けられないのなら、できるだけ楽しく考えて対処していきましょう。

次の世代のために、今よりも気持ち良く暮らせるような文化をつくりたい。それを受け継いだ彼らに、「おじいちゃん、おばあちゃんの想いって素敵だったんだね。」と言ってもらえるような暮らし方の価値をつくりたいじゃないですか。

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